【高校野球〜】肩に故障が生じやすい投球フォームについて

目次

  1. はじめに
  2. 肩の痛みがでやすい投球フォームとは?
  3. [動画で解説] 肩に痛みがでやすい投球フォーム

私たちは2008年より、コンピュータ・シミュレーションを使って、投球フォームの研究をしてきました。このシミュレーションの名前は、「モーション・シンセサイザー」といいます。主に、統計学・生体力学・最適化手法を駆使して構築しました。動作データベースを作って、モーション・シンセサイザーで解析すると、

1. 故障が生じやすい動作
2. パフォーマンスが向上する動作
3. 故障防止とパフォーマンス向上が両立する動作

など、さまざまな動作をコンピュータ上で作り出すことができます。今回は、①の故障が生じやすい動作の一例を紹介します。

図1 肩が故障しやすい投球動作

図1

私たちは、高校生から社会人野球選手の投球動作をたくさん集めてきました。ときにモーションキャプチャーシステムという3次元動作分析システムを使い、ときにデジカメと人工知能を用いて、投球動作中の全身の関節座標を取得してきました。それと同時に、ボールの速度や回転の情報、痛みやMRIなどの情報などを片っ端から集め、これらをすべてデータベース化してきました(図2)。

図2 データの収集

図2 データの収集

今回は、このデータベースをモーション・シンセサイザーで解析することで、「肩の痛みが生じやすい動作パターン」を調べあげたので、報告します。

図3 肩の痛みがでやすいフォームとできにくいフォーム

図3 肩の痛みがでやすいフォームとできにくいフォーム

図3はモーション・シンセイサイザーでの分析結果を静止画で表したものです。これは、コンピュータ上で作り出した動作です。上段は、肩の痛みが生じやすいフォームの典型例で、下段は、肩の痛みが生じにくい動作を示しています。

まず、一番左側のアーリーコッキングフェーズを見てみましょう。上段(痛みがでやすい)ほうは、右肩の水平外転の開始がタイミング的に速くなっています。これをもう少し柔らかく表現しますと、右ひじを拳上する前から、右ひじを背側に引きすぎています。一方、下段(痛みがでにくい)ほうは、タイミング的に早い段階から肩甲骨面上で右ひじを拳上しています。
次に、真ん中のフットコンタクトフェーズを見てみましょう。先のフェーズから姿勢を引き継いでいます。上段(痛みがでやすい)では、右ひじを背側に引きすぎて、右ひじを拳上できない状況になっています。今この記事を読んでいるみなさんも、一度読むことをやめ、右ひじを背中のほうに引き寄せてみてください。その状態で、右ひじを上げようとすると上がらないことに気が付くでしょうか?

最後に、一番左側のレイトコッキングフェーズをみてみましょう。先のフェーズから姿勢を引き継いでいます。上段(痛みがでやすい)では、右ひじが十分に拳上できていないまま、体幹の回旋が行われています。このような状況では、体幹が前屈・側屈しやすくなります。さて、もう一度読むのをやめて、右ひじを背中のほうに引き寄せ、右ひじが十分に拳上できていない状態で、体幹を前屈させながらボールを投げようとしてみてください。右肩のあたりが窮屈で嫌な感覚がありませんか(人によっては痛みを感じませんか?)。

~肩に痛みがでやすいフォーム~のイメージが湧いてきたでしょうか?
「まだ、いまいちよくわかない・・・」という方もいらっしゃるでしょう。それは、いまのところ静止画しかみていないからです。投球フォームは動画でみてイメージを沸かせるほうが良いと思いますので、今度は動画を提示します。

これは、肩の痛みが生じにくい投球動作です。図3の静止画の上段のものを動画にしたものです。

これは、肩の痛みが生じやすい投球動作です。図3の静止画の下段のものを動画にしたものです。

これは、さきほどの2つの動画を重ね合わせたものです。クリアに見えている方が、肩の痛みが生じやすいフォームになります。両者の違いがみえてきたでしょうか?このようにして、少しずつイメージを膨らませていってください。

さて、これまではモーションキャプチャーという3次元動作分析装置での分析結果を提示してきました。今度はもう少し身近な装置・・デジカメ・・で撮影した動画の分析結果をお見せします。この分析には、人工知能を使っています。

これは右投げの投球動作を3塁側からみたものになります。青色は、肩の痛みが出にくい動作パターンを示しており、赤色は、肩の痛みが出やすい動作パターンを示しています。
肩の痛みが出やすい方は、フットコンタクトフェーズで、「肘下がり」という現象が生じています。また、その後のフェーズで「体幹が本塁側にやや突っ込む」という現象が生じています。これらの2つが重なるとどうやら痛みがでやすくなるようです。

それでは、フットコンタクトフェーズに焦点をあてて、実際の投球姿勢の画像に、痛みが出やすい姿勢(スティックピクチャー)を重ねてみましょう。すると、痛みがでやすいときは、右ひじを背側に引きすぎて、右ひじを拳上できない状況になっていることに気づくでしょうか?

スティックピクチャーだとわかりにくい・・・という方もいるかもしれません。
ならば、実際に痛みが生じた選手(BADと表示)と痛みが生じなかった選手(GOODと表示)を重ね合わせた動画をつくってみました。いかがでしょうか?フットコンタクトの早期の段階で、右ひじを背側に引きすぎて、右ひじが上がらず、体幹がやや突っ込みかけていることにきづくでしょうか?このような状況の時は、肩を痛めやすく注意が必要です。一度、ご自分の投球フォームをデジカメで撮影してチェックしてみましょう。

注)今回の記事では、「肩の痛くなりやすいフォーム」をなるべくわかりやすく説明するために、難解な専門用語を用いることを極力避け、イメージを感覚的に表現しています。また、この研究の詳細については記事の中で触れていません。本研究について、詳しく知りたい方は、こちらの文献をご参照ください。
また、ホームページにモーション・シンセサイザーの原理を図解しています。ご興味があればこちらのサイトをご参照ください。
リンク先URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sobim/39/1/39_5/_pdf
リンク先URL:http://spolabo.justhpbs.jp/principle.html

この記事の作成者


石井壮郎石井壮郎
Takeo Ishii

博士(スポーツ医学)
日本整形外科学会 整形外科専門医
日本体育協会 スポーツ認定医
スポ・ラボ(一社)理事

千葉県船橋市出身、小学3年生から野球をはじめた。学生時代より「パフォーマンス向上と障害予防を両立するようなスポーツ動作」の開発に強い関心があり、2008年から筑波大学で研究を開始した。「スポーツ障害の最大の治療戦略は予防である」という経験に基づいた持論を展開し、あたかも天気予報の降水確率のように、近未来の投球障害の発症確率を予測するアプリケーションを開発し、運用している。最近は、「モーション・シンセサイザー」という統計学を駆使したコンピュータ・シミュレーションを開発し、障害防止とパフォーマンス向上を両立する動作をコンピュータ上で作成する研究を行っている。


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