【高校野球の怪我(ケガ)】肩の痛みや故障の原因・メカニズム

目次

  1. はじめに
  2. 高校野球での怪我(ケガ)の頻度
  3. 肩に痛みが生じる原因・メカニズム

甲子園・プロ野球・・・野球はプレイしている人にも、観戦している人にも感動を呼ぶスポーツです。しかし、この魅力的なスポーツは時に痛みを引き起こします。
我々は小学生から社会人まで、あらゆる年代の選手たちを4469人調べてきました(2017年12月現在)。今回は、高校生から社会人野球までのデータを基に高校野球でのケガの特性を解説してみたいと思います。

まず、高校野球選手で痛みが最も生じやすい部位を調べてみました。その結果、投球側の肩や肘が最も多く、次いで腰部が多かったです(図1)。

高校野球選手において、痛みの出やすい部位

図 1 高校野球選手において痛みのでやすい部位

次に、痛みの頻度について調べてみました。調査時点で、肩や肘に痛みを抱えながら練習している選手は、22%もいました。あなたの周りの身近な野球選手を5人思い浮かべてみてください。そのうちの1人は、肩や肘の痛みでつらい思いをしていることになります。

現時点で肩または肘に痛みがある割合

図 2 調査時点で肩や肘に痛みがあった割合

さらに、過去に肩や肘に痛みを経験したことがあるかどうかを聞いてみますと、その割合はゆうに半数を超えます。肩や肘の痛みは、発症してから数週間以内に治る軽度のものもあれば、半年くらい痛みが続く重度のものもあります。

過去に肩または肘に痛みがあった割合

図 3 肩や肘に痛みを経験したことがある割合

さて、高校野球選手には肩の痛みが多いことがわかりましたが、その痛みはなぜ生じるのでしょうか?
医学的には数多くのメカニズムが提唱されていますが、実際のところまだ完全には解明されておらず、学会でも議論中です。その中で、比較的コンセンサスが得られているメカニズムに「インピンジメント」というものがあります。
「インピンジメント? なにそれ?」という方も多いと思います。「インピンジメント」は英語ですが、これは翻訳すると「衝突」という意味になります。「肩関節の中で、なぜ衝突が起こるの???」
はてなマークがいっぱいの人も多いと思いますので、簡単に説明をしていきます。

 そもそも、人間の肩関節は可動域がとても大きいです。ご自身の関節を動かしてみてください。膝関節や肘関節と比べるといろいろな方向に動くことに気付くと思います。肩関節がこのような大きな可動域を生むためには、関節の中に「あそび」が必要です。つまり、関節のなかに多少「グラグラ」感がないと大きな可動域は出せないのです。このグラグラ感のことを動揺性といいますが、この動揺性の大きさは人によってさまざまです。この動揺性のイメージを動画で示します(動画1)

しかし、このイメージ動画のような動揺性が大きすぎると、肩関節は脱臼してしまいます。この脱臼を防ぐための機構として、人間の肩関節は「関節包靭帯」というものが存在します。そのイメージを動画で示します(動画2)。黄色の線で表示されたものが、モデル化された関節包靭帯です。

さらに、肩関節の周囲には筋肉も存在します。さきほどのモデルに筋肉もつけてみましょう。赤色の線で表示されたものが、モデル化された筋肉を示しています(動画3)。

このように、肩関節の中では、上腕骨頭(丸いところ)がグラグラと動揺しながらも、脱臼しないように関節包靭帯と筋肉によって制動されています。肩関節はこの「動揺」と「制動」が絶妙なバランスで成り立っている芸術品といえるかもしれません。この芸術品に投球動作を組み込んでみましょう。関節包靭帯や筋肉が伸び縮みながら、上腕骨頭が安定して回旋していることに気が付くと思います(動画4)。

しかし、投球の繰り返しによって、筋肉や靭帯に負荷や疲労が蓄積してくるとこれまでバランスがとれていた関節の安定性に支障がでてきます。バランスが崩れてくると肩関節の中で、上腕骨頭と肩甲骨の間に「グラグラ」とした不安定性が生じてきます。その「グラグラ」とした状況で投球動作を行うと、上腕骨頭は関節内のさまざまな組織に「衝突」し始めます。これが「インピンジメント」という現象です。
 上腕骨頭が「肩峰」というところに衝突する現象を「肩峰下インピンジメント」と呼びます。一方、上腕骨頭が肩甲骨側の「関節唇」というところに衝突する現象を「関節内インピンジメント」と呼びます(図4)。

インビンジメント現象

図 4 インピンジメント現象

このインピンジメント現象を今度はアニメーションでみてみましょう。上腕骨頭が肩峰や関節唇に衝突するとそこに矢印がでてきます(動画5)。緑色の矢印でると、それは肩峰と衝突したことを意味します。赤色の矢印がでると、それは関節唇と衝突したことを意味します。

さて、投球によって衝突現象(インピンジメント現象)が起こることがこれでご理解いただけたかと思いますが、この現象が過度に繰り返されると生体にはどんな反応がおきるのでしょうか?
我々は、野球選手の肩のMRIを撮影し研究したことがありますので、その結果を解説していきます(図5)。

野球選手の肩のMRI

図 5 野球選手の肩のMRI

図5はその結果の一つです。上腕骨頭というのは丸いところになりますが、そのやや左下の部分(赤矢印)のところに異常があることに気付くでしょうか?
この部分がインピンジメント現象によって上腕骨頭に傷がついたところです。実はこの画像の選手はこのMRI撮影を行ったときには、痛みなく元気に野球をしていました。痛みがないのに・・元気に野球をやっているのに・・、実は野球選手の肩関節の中には知らないうちにインピンジメントによる傷がつき始めていたのです。こうした傷の頻度ですが、だいたい野球選手の5割から7割の方にこのような傷が見られました。でも、この時点では選手は痛みはありません。

それでは、こうした傷がある選手はその後どうなっていくのでしょうか?
我々は、こうした傷がある人とない人について、追跡調査をしたことがあります。すると、上腕骨頭にこうした傷がある人は、傷がない人に比べて20倍も痛みがでやすいことがわかりました。つまり、こうしたMRI上の異常所見は痛みの前駆病変の可能性があります。前駆病変を持っている方は、近未来に痛みが生じやすくなります。もっと詳しく知りたい方は論文(肩関節 2010,34(3):879-889)をご参照ください。

さて、MRIなどの医療画像になれていない方はこの傷をみてもイメージがわかないとおもいます。それでは、この傷イメージを膨らませてみたいと思います。みなさんは子供の時に、転んで「ひざこぞう」に擦り傷を作った経験はあるでしょうか?MRI上みられたこの傷は、感覚的には「ひざこぞう」の擦り傷に似ています(図6)。

ひざこぞうの擦り傷

図 6

擦り傷ははじめジュクジュクしていますが、だんだんとカサブタになり、触らなければ痛みがなくなり、自然に治癒するでしょう。この「触らなければ痛みがなくなり」というところがポイントです。投球によるインピンジメントによって、肩関節の中には傷ができます。投球を続けるとその傷にまたインピンジメントがおきます。
これは、ひざこぞうのカサブタを平手でバンバン叩いているようなものです。それは痛いでしょう。さらにカサブタが外れ、ジュクジュクしているところをまた平手で叩いたら、ますます痛いでしょう。傷もなかなか治りません。

~肩に痛みがでるメカニズム~イメージが湧いたでしょうか?それでは、こうした傷を治すためには、どのようにしたらよいのでしょうか?
傷を治すためには、2つのことが大切です。

 1. 傷がいえるための安静期間を設ける。
 2. 同一部位に負担がかからないように、投球動作や筋力特性を変える。

この2つのことができれば、傷は生じにくくなり、仮に傷ができても深くはなりにくくなるでしょう。ただ、②の投球動作や筋力特性を変えることは、それによってパフォーマンスも下がることもあるので、注意深く行う必要があるでしょう。

このサイトでは、さまざまな情報がたくさん記載されています。それらを参考に、痛みを生じさせずにパフォーマンスを高めることを実践していきましょう。

注)今回の記事では、病態をなるべくわかりやすく説明するために、難解な専門用語を用いることを極力避け、イメージを感覚的に表現しています。そのため、実際の現象を科学的に厳密に記述しているわけではないことをご了承いただけますと幸いです。

この記事の作成者


石井壮郎石井壮郎
Takeo Ishii

博士(スポーツ医学)
日本整形外科学会 整形外科専門医
日本体育協会 スポーツ認定医
スポ・ラボ(一社)理事

千葉県船橋市出身、小学3年生から野球をはじめた。学生時代より「パフォーマンス向上と障害予防を両立するようなスポーツ動作」の開発に強い関心があり、2008年から筑波大学で研究を開始した。「スポーツ障害の最大の治療戦略は予防である」という経験に基づいた持論を展開し、あたかも天気予報の降水確率のように、近未来の投球障害の発症確率を予測するアプリケーションを開発し、運用している。最近は、「モーション・シンセサイザー」という統計学を駆使したコンピュータ・シミュレーションを開発し、障害防止とパフォーマンス向上を両立する動作をコンピュータ上で作成する研究を行っている。


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